情報通信技術の発達により、現実世界に別の世界を重ね合わせて見ることができる【拡張現実(AR、Augmented Reality)】が普及しています。
Googleマップ上にポケモンの世界を重ね合わせた「ポケモンGO」などは【拡張現実】の代表例です。
「ポケモンゴー」はGoogleから独立したNiantic(Google社内スタートアップ企業で2015年に独立した会社)が開発・運営した「Ingress(イングレス)」を基礎としたゲームです。
今回は【拡張現実(AR)】の歴史と今後の活用展望について解説しています。
みなさんの「知りたい」に応えて、悩みや疑問の解決の参考になれば幸いです。
1分で分かるVRとARの違い
【AR】が「拡張現実」を意味し「現実世界に追加情報を重ねて物事を見る」のに対して、VR(バーチャルリアリティ)は「現実でない世界で現実のように体験・行動できる」ものを言います。
例えば以下のような分類です。
- AR:ポケモンGO、夜空とスマホを重ね合わせて観る「星座早見アプリ」、家具の試し置き(Amazonショッピングアプリ)、名画の室内仮想配置(Pocket Gallery)など
- VR:ショッピングモールの再現、ドライブ体験、ツーリズム地体験など
拡張現実(AR)の原点
【拡張現実(AR)】は、比較的新しい技術だと思われがちですが、その歴史は古く半世紀も前にさかのぼります。
【AR】の原点は、アメリカのアイバン・サザランド博士(計算機科学)により1968年に開発された「ヘッドマウントディスプレイシステム」にあります。
2つのCRT(ブラウン管)の3D映像を鏡を介して現実世界に重ね合わせるものです。
当時はスマホもゴーグルももちろんないので、実物の鏡を介して現実世界を拡張するのがこのシステムの特徴です。
拡張現実の言葉の通りですね。
HMDSと「ダモクレスの剣」
ヘッドマウントディスプレイシステムは「ダモクレスの剣」とも呼ばれていました。
システムを装着したときの見た目に由来するもので、垂れ下がるトラッキング機器が、頭にささった剣のように見えるためです。
【AR】の原点であるヘッドマウントディスプレイシステムが開発された当時は、現在のコンピュータとは比べ物にならないくらい計算機が巨大で、システムを構成する機器やケーブル類も大がかりなものでした。
なので頭に剣の刺さった絵に見えたのも解せます。
ただこの「ダモクレスの剣」にはもっと深い意味があったことにも触れておく必要があります。
もともとは「王様のような立場のある身分や役割は、一見誰もが羨む贅沢をしているように見えるが、実は、常に、頭上に剣のように死に至るものの存在があり、逃れることのできない恐れがある」ということです。
以下では社会背景的にも重要な比喩であったことも解説しておきます。
国連演説と「ダモクレスの剣」
【AR】の原点である「ヘッドマウントディスプレイシステム」に例えられた「ダモクレスの剣」は、世界的な地球環境問題や核を議論する国連の場においてケネディ大統領の演説で引用されました。
引用されたのは1961年。ヘッドマウントディスプレイシステムが世に出た1968年の10年近くも昔のことです。
その演説内容は以下のようなものでした。
地球のすべての住人は、いずれこの星が居住に適さなくなってしまう可能性に思いをはせるべきであろう。
老若男女あらゆる人が、核というダモクレスの剣の下で暮らしている。世にもか細い糸でつるされたその剣は、
事故か誤算か狂気により、いつ切れても不思議はないのだ。
というものです。
いつの時代も科学技術の多くは、テロや戦争や争いと強く関係していて、その便利さゆえ、脅威と表裏一体であるとも言えます。
科学技術と国防
「核」を剣に見立てた「ダモクレスの剣」が象徴する世界に暮らす私たちにとって、糸でつるされたその剣は、事故か誤算か狂気により、いつ切れても不思議はないというものです。
「ヘッドマウントディスプレイシステム」の開発者たちが「ダモクレスの剣」と比喩したのは、頭の片隅にケネディ大統領による国連演説が色濃く残っていたからではないかと思います。
科学技術の発展動機は「軍事」に関わることが多いのですが、これは今回解説している【AR】にも通じます。
物理や工学は戦術や勝利のための戦略、国防に貢献するための学問として長い歴史のなかで常に研究・発展してきました。
ミサイル弾道と物理学、航空力学、兵法と物流工学(例えば、兵糧攻めが在庫管理)などです。
AR活用の方向性
ARの平和的な活用がゲームやヘルスケア・ダイエットである以外に、映画やアニメでよく見る宇宙戦争などでも使われていますね。
相手に的確にダメージを与えるために弾道や標的を見える化するメガネなどにも【AR】が使われます。
アイバン博士の開発以降の【AR】は、Google Glassの失敗を経て、Pokémon GOで市民権を得たと言えます。
今では、古地図をたよりに昔の街並みと現実社会を重ね合わせたり、交通事故の多さを空間的に整理した事故マップと重ね合わせるなど社会の文化や安全に着目した【AR】なども出ていますね。
おわりに
現実社会とどんなことを重ね合わせると有効か、世界中で様々なアイデアが出てくることを期待します。
どんな方向で【AR】を使ってより良い社会が実現されると良いですね。